真鍮を線的に加工してつくられた「ゼロ」のかたち

ゼロといち

Zero and One

制作年2024
素材真鍮、手、光
作品形態オブジェ/彫刻

「ゼロ」は本来、「何もない」ものとして哲学的に扱われてきた概念である。古代ギリシャでは「存在しないもの」とされ、のちにインドの数学者ブラフマグプタによって、はじめて独立した数として定義された。ゼロの発見は、世界の見方そのものを変える転換点だった。

本作《ゼロといち》は、「ゼロから一が生まれる瞬間」に着目した作品である。それは、無から突然何かが生じるという神話的な創造ではなく、既にそこにあるものの見方が変わることで、新しい発想が立ち上がる瞬間を示している。

素材には、古くから用いられ、現代においても輝きを失わない金属である真鍮を選んだ。真鍮を線的に加工し「ゼロ」の形をつくることで、過去と現在をつなぐ存在としてのゼロを表現している。このゼロの形は、角度や向きをわずかに変えることで「一」に近づいていく。重要なのは、「ゼロが消えて一になる」のではなく、ゼロという既存の状態に新しい視点が与えられることで、一が立ち上がるという点である。

ゼロとは、空気のように、日常のように、普段は意識されない「今ここにあるもの」でもある。そこに視点のずれが生まれたとき、初めてアイディアは姿を現す。本作は、ゼロから何かを生み出す勇気の一歩、そして自己を変えるための小さな一歩を象徴している。「無」から「有」を生み出すのではなく、すでにあるものを見直すことで、新しい世界が開かれる——その転換点こそが、クリエイティブの始まりである。